左:重文 本多平八郎姿絵屛風
右:重文 遊楽図屛風(相応寺屛風)
2023年9月24日(日曜日)から11月5日(日曜日)
秋季特別展
「人間讃歌 ―江戸の風俗画―」
- ■会場
- 蓬左文庫展示室
徳川美術館本館展示室 - 戦国の乱世が終わり、泰平の世が到来した江戸時代、現世を謳歌する人々の姿を描いた風俗画が数多く登場しました。人を主題とした風俗画の名品を展示し、その普遍的かつ魅力あふれる世界を紹介します。
展示の詳細案内
戦国の乱世が終り、泰平の世が到来した江戸時代には、現世享楽の気風を反映し、京都や江戸といった都市を舞台として、芝居や遊里、祭礼などの活況を描き出した風俗画が数多く描かれました。江戸時代の風俗は、平和を謳歌し、ときには厭世観を漂わせながらも、現実を生きる人々に視線を注いだ絵画であり、今なお普遍的な魅力にあふれています。
本展では、江戸時代に花開いた多様な風俗画の名品の数々を展示し、その魅力ある世界を紹介します。
洛中洛外図屛風(舟木本) 岩佐又兵衛筆 六曲一双
(らくちゅうらくがいずびょうぶ(ふなきぼん))
両隻を連続した横長の大画面として、東山一帯と洛中の景観を南西から捉えた視点で描く。400年前の京都を生きる人々の姿をまるで覗き見るように描き、風俗画の主眼を人間の営みへと近づけた革新的作品と評価される。右隻の方広寺には大坂の陣の契機の一つとされる鐘銘事件の梵鐘が描き込まれ、慶長19年(1614)から翌元和元年の景観と特定される。右端に方広寺大仏殿、左端に二条城という豊臣家と徳川家を象徴する建物を対峙させ、当時の政治的緊張を表現しているかのようである。作者の岩佐又兵衛は、江戸時代初期に個性的な画風と巧みな画技を用いて活躍し、現在は「奇想の画家」としても注目されている。
東京国立博物館蔵
江戸時代 17世紀
国宝
展示:2023年10月17日(火曜日)から11月5日(日曜日)
歌舞伎図巻 二巻
(かぶきずかん)
出雲のお国が創始した歌舞伎踊りは人気を博し、たちまち数多くの追随者を生んだ。本巻の主人公采女(うねめ)もその一人。「ふじのおどり」など五種の踊歌と踊りの図、最後に采女が男装して踊る「茶屋遊び」の場面で構成される。囃子は三味線がない初期女歌舞伎の様相を示す。歌舞伎踊りだけでなく、小屋内外の描写にも優れ、服飾描写に卓越したこだわりをみせる。
肩衣(かたぎぬ)や小袖の形式など風俗描写の年代は、慶長年間(1596から1615)末期に求めることができる。修理の際、旧見返しの裏面に葵紋があったことから徳川一門の特注品とみられる。
徳川美術館蔵
江戸時代 17世紀
重要文化財
(会期中巻き替え)
豊国祭礼図屛風 岩佐又兵衛筆 六曲一双
(ほうこくさいれいずびょうぶ)
豊臣秀吉の七回忌にあたる、慶長9年(1604)8月、京都で盛大に催された豊国大明神(とよくにだいみょうじん)臨時祭礼の風景を描く。右隻の神官による騎馬行列、左隻の町衆による大風流(だいふりゅう)踊りの描写がとりわけ圧巻であり、熱狂する群衆による爆発的なエネルギーが眼前に迫り出してくるようである。画面全体に岩佐又兵衛風の様式がみられるとともに、濃密な色彩や細密表現を駆使して仕上げており、又兵衛が相当数の弟子を統率して製作を主導し、破綻のない全体構想を実現したと考えられる。祭礼の光景を事細かに記録している点、風俗表現が「洛中洛外図屛風(舟木本)」(東京国立博物館蔵)と近似する点から、京都において祭礼から近い時期に製作されたことが推測される。又兵衛による大画面画の傑作として、舟木本と双璧をなす作品である。
蜂須賀家伝来
徳川美術館蔵
江戸時代 17世紀
重要文化財
遊楽図屛風(相応寺屛風) 八曲一双
(ゆうらくずびょうぶ(そうおうじびょうぶ))
尾張徳川家の菩提寺・相応寺に伝来したことから、「相応寺屛風」の通称で知られる。八曲一双の大画面を松や金雲で区切り、さまざまな遊楽を描き出す。右隻は花見の宴や市中の賑わい、能の興行など野外の遊楽、対して左隻は池苑と湯殿を備えた豪壮な邸宅の内外に、舟遊びや風流(ふりゅう)踊り・酒宴・かるた遊びなどの遊楽を描く。人々がありとあらゆる遊楽に打ち興じ、泰平の世を満喫するさまが繰り広げられ、享楽的雰囲気が濃厚に漂う。
きわめて精緻な人物描写もさることながら、様々な遊楽を破綻なくまとめた構成力、見る者を引き込む細密描写は傑出しており、邸内遊楽図の中でも最も初発的な作品と位置づけられている。
徳川美術館蔵
江戸時代 17世紀
重要文化財
風俗図(彦根屛風) 六曲一隻
(ふうぞくず(ひこねびょうぶ))
彦根井伊家に伝来したため、「彦根屛風」と愛称される本屛風は、近世初期風俗画の中でも屈指の名品として名高い。金箔地の無背景に享楽に身をゆだねる男女15人を巧妙に配置して描く。室内での遊びは、文人の嗜みである琴棋書画を三味線(琴)・双六(棋)・文(書)・屛風絵(画)と当世風に置き換えて構成されている。女性たちは京都・六条三筋町に実在した遊女とみられている。
小袖模様や調度品など描写は精緻を極め、本格的な筆法で描かれた屛風絵に卓越した力量がうかがえ、狩野派の作者が有力視されている。
滋賀・彦根城博物館蔵
江戸時代 17世紀
国宝
展示:2023年10月24日(火曜日)から11月5日(日曜日)
湯女図
(ゆなず)
「湯女図」の名は、左から二人目の小袖に篆書体(てんしょたい)の「沐(もく)」の字があることに由来する。「沐」は洗う、髪を洗うという意味の字で、風呂屋で客の世話や接待をした湯女に通じる。しかし、彼女たちには湯女という苦界に身を堕した悲嘆や後ろめたさはなく、斬新な小袖をまとった張りのある姿形には、時代の最先端を闊歩するという姿勢すらうかがえる。三人が大きく後ろを振向くことから、その視線の先に彼女たちに言い寄る男性たち、もしくは反目する吉原の遊女たちなど別の集団が描かれていたとみられている。中央の女性の姿形は、脱俗的イメージを伴う中国の僧・寒山に重なるとの指摘があり、当世風の風俗描写にとどまらない表現の奥深さが本図の魅力である。
静岡・MOA美術館蔵
江戸時代 17世紀
重要文化財
展示:2023年9月24日(日曜日)から10月15日(日曜日)
竹栗鼠梅模様振袖 紺黄染分綸子地
(たけりすうめもようふりそで こんきそめわけりんずじ)
斜めに大きく黄と紺で染め分けた振袖。紺地には梅花と梅樹を絞り染めで白く染め残し、さらに雪が降るかのように粒を散らす。黄地には竹の葉を大きくあらわし、白く染め残した部分に葡萄に栗鼠や竹の葉脈を墨で描く。小袖全体をのびやかな曲線で大きく染め分け、右腰部分を余白とした本品の大胆な意匠は、「寛文小袖」を思わせるが、左袖の曲線による染め分けや墨の描絵などから、寛文小袖へと至る直前の過渡期の作に位置づけられている。
文化庁蔵
江戸時代 17世紀
重要文化財
展示:2023年10月17日(火曜日)から11月5日(日曜日)
納涼図屛風 久隅守景筆 二曲一隻
(のうりょうずびょうぶ)
満月が辺りを照らしだす夏の夕べ、夕顔の棚の下で、のんびりと夕涼みをする親子三人。父親の手足を太目の濃墨、母親の上半身をしなやかな細い線で描き、月の白さは周囲を薄くぼかしてあらわす。筆墨を巧みに使い分けつつも、薄墨を基調として一つのまとまりをみせており、画家・久隅守景(くすみもりかげ・生歿年未詳)の並々ならぬ力量がうかがわれる。
農村の何気ない生活の一光景ながら、人間に対するやさしいまなざしにあふれており、泰平の世を端的に象徴した江戸時代を代表する名画である。
東京国立博物館蔵
江戸時代 17世紀
国宝
展示:2023年9月24日(日曜日)から10月15日(日曜日)
都鄙図巻 住吉具慶筆
(とひずかん)
正月の公家屋敷に始まり、軒を連ねる店屋、庭園や矢場を備えた武家、職人たちの町並み、野山での紅葉狩り、雁や鴨が飛び交う水辺に刈田と、めぐりゆく季節の中で人々の営みがこまやかに描き出されている。都市から農村にいたるまで、そこに生きる人々の豊かな暮らしぶりを、順を追って眺められるように配慮されている。
落款から、幕府の御用絵師・住吉具慶(ぐけい)(1631から1705)の晩年作とわかる。五代将軍徳川綱吉によって奈良の尼門跡寺院である興福院(こんぶいん)に寄進された。描かれた都市と農村の繁栄は善政あっての賜物であり、綱吉を為政者として讃えるような思惑が読み取れる。
奈良・興福院蔵
江戸時代 17から18世紀
奈良市指定文化財
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